漢書とは|成立・構成・注の層と史料として読む注意点

漢書の成立・構成・注の層を押さえ、倭人記事の位置づけと読み方の注意点を整理。

漢書(前漢書)は、前漢から王莽期にかけてを扱う「正史」です。
邪馬台国研究では、魏志倭人伝より前の段階で倭に触れる早い記録として、地理志の一文が参照されます。
一方で、現在広く読まれる本文には顔師古注などの注釈が併載されやすく、本文と注(さらに注の中の引用)を混ぜると、年代感や根拠の所在が崩れやすい点に注意が必要です。

この記事では、漢書の基本データ(成立・構成・通行本)を押さえたうえで、邪馬台国研究で参照される箇所と「線引きのコツ」を、学説比較をせずに整理します。

この記事で分かること
  • 漢書がどんな本か(成立・編者・対象時代・構成)が分かります。
  • 通行本で混ざりやすい「本文/注/注中引用」の分け方が分かります。
  • 邪馬台国研究で参照される入口箇所(当サイトの原文ページ)に迷わず辿れます。
目次

漢書とは

漢書(前漢書)は、前漢(および王莽期)を対象にした紀伝体の正史です。
史記が「通史(広い時代を通して叙述する)」であるのに対し、漢書は「一王朝(断代)」を扱う形式として、後世の正史編纂の基本形になりました。

邪馬台国研究の文脈では、直接の主軸(卑弥呼・女王国など)ではないものの、「倭/倭人」という呼称がいつ・どの文脈で現れるかを点検する補助線として参照されます。

基本データ

成立・編者
班固像
班固像
著者班彪、班固、班昭、馬続
成立年82年頃(諸説あり)

漢書は、後漢期に班固を中心として編まれました。
班固の死後、班昭が作業を継ぎ、馬続が助けたと説明されることがあります(細部は版や概説により書き分けが出ます)。

成立は後漢期で、完成年の書き方にも幅があります。
ここでは「後漢期に成立した前漢の正史」という押さえ方で十分です。

構成(巻立て)
『漢書』における倭の位置付け
『漢書』における倭の位置付け

構成は「本紀(皇帝の本筋)」「表(一覧・年表)」「志(制度・地理などのテーマ別)」「列伝(人物・諸勢力)」という大枠で押さえておくと、必要箇所を探しやすくなります。

特に邪馬台国研究においては、古代日本の倭国・倭人の様子を知る手がかりとして漢書地理志が参照されています。

通行本と「注」の層

通行本は唐代の顔師古による注釈(いわゆる顔師古注)が付される形が標準になりやすく、本文のすぐ近くに旧注(如淳・臣瓚など)や別史料由来の説明が並ぶことがあります。
史料として扱うときは、まず「どの層の文章を読んでいるか」を意識するのが安全です。

邪馬台国研究で参照される理由

邪馬台国や卑弥呼を直接述べるのは魏志倭人伝などですが、その前段階として、漢書の地理志に見える「倭人」への言及が参照されることがあります。
代表的なのが次の一文です(ここでは“本文の存在確認”のために掲げ、解釈の結論は固定しません)。

樂浪海中有倭人分為百餘國以歲時來獻見云

『漢書』卷二十八下「地理志第八下/燕地」

ここで先に作っておくと便利なのは、「何が確実に言えて、どこから解釈が入るか」の線引きです。
本文が述べる事実(記述の存在)と、その意味づけ(解釈)と、そこからの復元(仮説)を分けると、後漢書・三国志などと突き合わせるときに議論が整理しやすくなります。

史料として読むときの注意点

本文・注・注中引用の「層」を先に分ける

漢書は「本文(班固らの叙述)」だけで読むのが理想ですが、実務では顔師古注などが付いた形で目にすることが多く、本文のすぐ隣に注釈が並びます。
ここで無意識に本文と注を同列に扱うと、後代の説明(さらには注の中に引かれた別史料)まで、本文と同じ年代の根拠として扱ってしまいがちです。

読むときは、最低限「本文」「注(誰の注か)」「注中引用(引用元は何か)」の3層に分けてメモするだけでも、議論が崩れにくくなります。
特に「帯方」「魏略」など、本文の対象時代からは離れた情報が注側に出る場合は、いったん“注の情報”として保留するのが安全です。

「地理志」というジャンルが、読み方の前提を決める

邪馬台国研究で参照される倭人記事は、地理志(地理・行政区画・分野などを扱う章)に含まれます。
地理志は、人物伝のように出来事を時系列で語る章ではなく、地域や制度に関わる情報が同じ段に並びやすい性格があります。
そのため、短い語(例:「海中」「歳時」「獻見」)に結論を背負わせすぎると、本文が本来言っている範囲を超えてしまいやすいです。
まずは「本文が言っている“記述の形”」を押さえ、次に「その語の意味の幅」を検討する、という順序が向いています。

短い語に論点が集中するので、結論を急がない

漢書の倭人条は短文で、少ない語に多くの解釈が集まりやすいのが特徴です。
「樂浪海中」の地理イメージ、「百餘國」の数え方、「歳時」「獻見」の制度的ニュアンスなどは、読みの分岐点になりやすいポイントです。

通行本・版本差・字形方針を先に固定する

同じ倭人条でも、底本や表示環境によって字形(倭/委など)や段の切り方、注の併載のされ方が揺れることがあります。
議論をする前に、「どの公開DBで本文を確認したか」「字形をどう統一したか」「注を本文から分離したか」を先に固定しておくと、後から読み直したときに迷いにくくなります。

関連史料との関係

主軸

邪馬台国研究の主軸は、卑弥呼や女王国、使節記事などがまとまっている史料(例:魏志倭人伝)になります。
漢書はそこを置き換える史料ではなく、より早い段階で「倭人」という呼称がどのように記されるかを確認する補助線として機能します。

補助

漢書の叙述や体裁を理解するうえでは、史記との関係(体裁の違い、対象範囲の違い)や、後代の正史(後漢書など)で倭記事がどう展開していくかが補助情報になります。

『史記』との関係

漢書は前漢(および王莽期)を扱う正史ですが、前漢の歴史を辿るうえでは司馬遷『史記』とも範囲が重なります。
ここで大事なのは、『史記』の性格を「本文としての叙述範囲」と「現存本文の状態」に分けて理解することです。

『史記』は前漢を含む通史ですが、司馬遷が編纂を終えた時期の事情から、前漢末〜王莽期(新)にかけては、本来その叙述の対象に含まれません。
ただし現存する『史記』本文には、後世の補作・加筆が疑われる箇所も指摘されます。
そのため「司馬遷の原典として想定される範囲」と「現存本文に見える記述」は切り分けて読むのが安全です。

編纂者生没年役職功績
司馬遷紀元前145/135年~
紀元前87/86年
前漢の歴史家紀元前90年頃に『史記』を完成
ただし前漢は紀元後8年までの王朝
班彪3~54年後漢の歴史家『史記』を引き継ぐ”後伝”を作成
班固32~93年班彪の息子
後漢の歴史家・文学者
『史記』と”後伝”を基に漢書を作成
漢書の作成途中で獄死
班昭45~117年班彪の娘
中国初の女性歴史家
八表・天文志を書き継いで漢書を完成
馬続詳細不明学者班昭を助けたとされている
「後漢書」列女伝・班昭などから推測

こうした背景もあり、『史記』の後を補う意図で班彪が「後伝」を作ったとされますが、その篇数や内容の伝わり方には資料ごとの差があり、確定しにくい点があります。
その後、班固が『史記』や(未完の)後伝を参照しつつ『漢書』を編み、さらに未完だった部分が後に補われた、という流れで説明されます。

このように、前漢史を読むときは「史記で押さえるところ」「漢書で補われるところ」を意識すると、同じ時代の記述でも混乱が減ります。
特に倭人条のように短い語(例:「海中」「歳時」)に解釈が集中しやすい箇所では、史料ごとの性格の違いを踏まえて読み進めるのが有効です。

論点マップ

倭人条の入口(本文の所在)

地理志「燕地」に置かれる短文で、まずは文言確認が出発点です。

本文と注(旧注・師古注)を混ぜない

注の中に別史料由来の情報が混入し得るため、層の切り分けが論点になります。

「樂浪海中」「歳時」「獻見」など短語の読み

語の意味幅や制度性の評価が分岐点になりやすい箇所です。

同段に現れる分野・宿度説明との関係

倭人条と同じ段に天文的説明が続く場合、どこまでを倭人条として扱うかが整理ポイントになります。

史料の時間距離(対象=前漢、成立=後漢)

叙述対象と成立時期の距離を踏まえ、史実認定を急がない、という全体方針の論点です。

よくある質問(FAQ)

「漢書」と「前漢書」は同じですか?

日本語で「漢書」というと、班固らが編んだ“前漢の正史”を指すのが一般的です。
後漢の正史(後漢書)と区別する目的で「前漢書」と呼ばれることがあります。

「漢書地理志」と言うのはなぜ?

邪馬台国研究の文脈では、倭人記事がある地理志(燕地条)が参照されやすいため、実務上「地理志」を名指しして呼ぶことが多いからです。

顔師古注はどこまで信用してよい?

注は非常に有用ですが、本文とは成立事情が異なります。
まずは「注で何を言っているか」を本文と分けて記録し、注の中の引用(別史料由来)も区別しておくと安全です。
注の内容を本文と同格に混ぜない、という姿勢が基本になります。

参考文献・出典

倭人条の所在確認(巻・章の当たり)
書誌・構成(成立・巻数などの概説)
注の層(顔師古注の位置づけ)
原文確認
  • サイト名:漢籍電子文献資料庫
  • 用途:原文確認
  • URL:http://hanchi.ihp.sinica.edu.tw/ihp/hanji.htm
  • 閲覧日:2025-12-25
  • 「免費使用」をクリックし、「楽浪海中有倭人」で検索すると倭に関する記述を確認できます。
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