【漢書】倭人(樂浪海中有倭人)|原文・現代語訳・解説

『漢書』倭人条を原文・訳で読み、注の扱いと論点を簡潔に整理。

本記事は『漢書』卷二十八下「地理志第八下・燕地」に見える、いわゆる「樂浪海中有倭人」の本文と、併載されやすい注(如淳・臣瓚・師古)を扱います。

本文の確実範囲は「楽浪に関わる海域の向こうに倭人がいて、百余国に分かれ、定まった時期に来て献上・謁見する」という点です。
一方で、注には帯方や『魏略』など、本文(前漢を扱う地理志)より後の層の情報が混ざります。
本文と同列に扱わず、まず“層”を分けて読むのが安全です。
また同じ段の末尾にある宿度・分野の説明(危四度〜斗六度…)を、倭人条とどこまで一続きとして読むかも整理ポイントになります。

目次

原文

字形方針:繁体に統一します。
整形方針:句読点は付けず、区切りは全角スペースで示します。本文と注は分離して掲出します。

本文(倭人条)

樂浪海中有倭人 分為百餘國 以歲時來獻見云

『漢書』巻28 地理志 燕地条

注(如淳・臣瓚・師古)

如淳曰:如墨委面 在帶方東南萬里

臣瓚曰:倭是國名 不謂用墨 故謂之委也

師古曰:如淳云『如墨委面』 蓋音委字耳 此音非也 倭音一戈反
今猶有倭國 魏略云倭在帶方東南大海中 依山島為國 度海千里 復有國 皆倭種

『漢書』巻28 地理志 燕地条

別段(分野・宿度の説明)

自危四度至斗六度謂之析木之次燕之分也

『漢書』巻28 地理志 燕地条

現代語訳

本現代語訳は語義・文脈にもとづく試訳であり、語句の区切りや含意には複数の読みがあり得ます(特定説に偏らないよう配慮しています)。

楽浪に関わる海域の向こうに倭人がいる。国は百余りに分かれており、定まった時期ごとに来て、献上し、(朝廷に)まみえるという。

如淳は「(倭人は)墨を塗ったように顔を覆っている。帯方の東南一万里にいる」と言う。
臣瓚は「倭は国名であり、墨を用いることを指すのではない。だから(表記として)『委』と呼ぶのだ」と言う。
師古は「如淳の『墨を塗ったように委面』は、『委』の字音に引きずられただけだろう。しかしその音は正しくない。『倭』の音は(反切1で)『一戈反』である。今も倭国があり、『魏略』には倭は帯方の東南の大海中にあって、山や島に寄りかかって国をなし、海を千里渡るとさらに国があり、いずれも倭の同類だ、とある」と言う。

危宿の四度から斗宿の六度までを「析木の次」といい、燕の分野2である。

史料解説

事実(本文から言えること)

  • 本文は、楽浪に関わる海域の向こうに「倭人」がいると述べます。
  • 倭人は「百餘國」に分かれるとされます(国の単位・実態は本文だけでは確定しません)。
  • 倭人は「以歲時來獻見」すると書かれ、定期的な来訪と献上・謁見の含意が読み取り候補になります。
  • 同じ段内に宿度・分野の説明(危四度〜斗六度…)が続きますが、内容としては天文的な区分の説明です。

読みの分岐点(どこで解釈が割れるか)

  • 「樂浪海中」:海の“中”を、沖合・海域・海の向こう(島嶼)など、どのイメージで取るか。
  • 「百餘國」:数を実数に近い情報として扱うか、概数表現として幅を残すか。
  • 「歳時」:毎年固定なのか、季節ごとの周期なのか、儀礼的表現なのか。
  • 「獻見」:献上に留まるのか、謁見(朝廷で会う)まで含めるのか(制度性の評価)。
  • 別段(宿度)との線引き:倭人条の一続きとして読むか、燕地の分野説明として切り離すか。

注意点

  • 如淳・臣瓚・師古の注は、本文とは成立事情が異なる“後の層”です。
    本文の年代感と同列に置くと、根拠が混ざります。
  • 「帶方」「魏略」は本文ではなく、注(師古注内の引用)として現れます。
    本文の主張として扱わず、注の情報として整理するのが安全です。
  • 「倭/委」や読み(反切)などは、注が扱うテーマです。
    本文の叙述と、字音・字形説明を切り分けると誤読が減ります。
  • 本文と注の境界、さらに別段(宿度)との段切りは、底本や表示環境の編集方針の影響を受けやすい点に注意してください。

論点メモ

  • 「樂浪海中」の地理像:沿岸の“沖合”なのか、“海の向こうの島嶼”なのかで、読者の地図イメージが変わります。
  • 「歳時來獻見」の制度性:定期朝貢の確立を示すのか、伝聞的な往来描写に留まるのかが分岐点です。
  • 注の混入(帶方・魏略):本文の年代感と、注が持ち込む後代情報は分けて整理する必要があります。
  • 別段(宿度)の扱い:倭人条の補足と読むか、燕地の分野説明として独立させるかで、引用範囲が変わります。

出典

紙版の位置情報の手がかり
原文確認・所在確認
  • サイト名:漢籍電子文献資料庫
  • 用途:原文確認
  • URL:http://hanchi.ihp.sinica.edu.tw/ihp/hanji.htm
  • 閲覧日:2025-12-25
  • 「免費使用」をクリックし、「楽浪海中有倭人」で検索すると倭に関する記述を確認できます。

脚注

  1. 漢字音を示す方法 ↩︎
  2. 古代の天文上の区分で、地域に対応づける考え方 ↩︎
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