【山海經】黑齒國・湯谷/扶桑・倭屬燕|原文・現代語訳・解説

『山海經』の「倭屬燕」を巻・章段付きで読み解く。

本ページは『山海經』のうち、邪馬台国研究で参照されやすい範囲として、
(1)海外東經の「黑齒國」周辺(湯谷・扶桑・十日)
(2)海內北經の「倭屬燕」
を、原文→試訳→局所解説の順にまとめたものです。

『山海經』は地誌の形を取りつつ神話・異聞が混在し、さらに通行本では注(郭璞注など)も併載されやすい史料です。
ここでは 本文と注を混ぜないことを前提に、断定を急がない形で「論点の場所」だけ整理します。

この記事で分かること
  • 「倭屬燕」が載る章段と、章の所属が揺れる理由(底本差・編集差)
  • 原文(最低限の前後)と、現代語での言い換え
  • 読みの分岐点(「屬」の含意、地名比定、注の扱い)
目次

原文

字形方針:繁体に統一します。
整形方針:句読点は付けず、区切りは全角スペースで入れています(原文確認のための整形です)。

海外東經(黑齒國/湯谷・扶桑)

黑齒國在其北為人黑食稻啖蛇一赤一青在其旁
一曰在豎亥北為人黑手食稻使蛇其一蛇赤

下有湯谷湯谷上有扶桑十日所浴在黑齒北
居水中有大木九日居下枝一日居上枝

『山海經』卷第9 海經 海外東經

海內北經(蓋國/倭屬燕)

蓋國在鉅燕南倭北倭屬燕
朝鮮在列陽東海北山南列陽屬燕

『山海經』卷第12 海經 海內北經

現代語訳

本現代語訳は語義・文脈にもとづく試訳であり、語句の区切りや含意には複数の読みがあり得ます(特定説に偏らないよう配慮しています)。

卷第9 海經 海外東經(黑齒國/湯谷・扶桑)

黒齒国はその北にあり、人々は(肌が)黒いとされます。稲を食べ、蛇を食べ、そばに赤い蛇と青い蛇がいる、と述べます。
別の言い方では、豎亥の北にあって、人々は黒い手をもち、稲を食べ、蛇を使う、とも書かれます。
その下に湯谷があり、湯谷の上には扶桑がある。
十の太陽がそこで身を浴び、場所は黒齒国の北にある、と述べます。
水の中に大木があり、九つの太陽は下の枝に、一つの太陽は上の枝に居る、と続きます。

卷第12 海經 海內北經(蓋國/倭屬燕)

蓋国は鉅燕の南にあり、倭の北にある。倭は燕に属する、と述べます。
朝鮮は列陽の東にあり、海の北で山の南にある。列陽は燕に属する、と述べます。

史料解説

史料について

  • 編纂者:不明(単独の著者が一度に書いたものではない、とされることが多い)
  • 成立年代:不明(戦国〜秦漢にかけて段階的に形成されたとする見方がある)
  • 対象時代:神話的叙述〜伝聞地理が混在(特定の「同時代記録」とは限らない)
  • 地理叙述を軸に、異国・異形・祭祀・産物・系譜などを含む複合的テキスト
  • 全体構成:現行本は全18巻(五蔵山経/海外四経/海内四経/大荒海内経 などに大別される)
  • 郭璞(276–324)がまとまった注を付した系統が広く参照される(本文と注の切り分けが必要)
  • 信憑性メモ(注意点として):地望・国名が史実と直結しない可能性がある一方、後世に「倭」像を組み立てる材料として引用されやすい

事実:この箇所の本文から言えること

海外東經の記述は、「黒齒国」や「湯谷」「扶桑」「十日」などを、地誌的な並びの中で列挙しています。
ここから確実に言えるのは、そうした名称が“配置表現”として並ぶという点までです(史実の年代や実在性は本文だけで確定しません)。

海內北經の記述は、「蓋国」「鉅燕」「倭」「燕」などを挙げ、南北関係(鉅燕の南/倭の北)と、屬(属する)という関係表現を置いています。
同段には続けて朝鮮・列陽にも同様の「屬」が用いられています。

読みの分岐点:どこで解釈が割れるか

「黑齒國」「十日」「扶桑」などは、そもそも『山海經』の性格(地誌+異聞+神話)により、実地報告として読むのか、異界・神話的配置として読むのかで前提が割れます。
邪馬台国研究で扱う場合は、主軸史料の代替ではなく、周辺認識の“材料”として距離を取るのが安全です。

「倭屬燕」の「屬」は、政治的な服属(支配関係)まで読むのか、より広い帰属・関係表現として留めるのかで含意が変わります。
同じ段で朝鮮・列陽にも「屬」が使われるため、まずは地誌的整理の言い回しとして読む余地を残すのが無難です。

注意点

四部叢刊本系の本文では、海內北經の該当箇所に郭璞注が併載され、注の中で後代的な説明が入り得ます。
議論の根拠に使うときは、本文が言っていること注が補っていることを分けて記録してください。

また、公開DBや底本により、字形(黑/黒、屬/属など)や区切り方が異なることがあります。
引用時は「どのDB(URL)で確認したか」を必ず固定すると、後から検証しやすくなります。

論点メモ

  • 海外東經の「黒齒国〜扶桑〜十日」
    地名列挙として扱うか、神話配置として扱うかで“史実距離”が大きく変わります(このページでは確定しません)。
  • 「倭屬燕」の「屬」
    政治的服属まで読むのか、地誌的な帰属表現に留めるのかが分岐点です。
  • 同段の並行表現(朝鮮/列陽も「屬」)
    「倭」だけ特別扱いせず、段全体の文体・整理法を先に見るのが安全です。
  • 本文と注の切り分け(郭璞注など)
    注を本文根拠と混同すると、根拠の層(年代感)が崩れやすい点に注意します。

出典

Chinese Text Project
維基文庫
早稲田大学 古典籍総合データベース
立命館大学(PDF)
國學院大學(PDF)
  • ページ名:『山海経』佚文考
  • URL:https://doi.org/10.57529/00000205
  • 用途:校訂・伝本に関する注意点の補助
  • 閲覧日:2025-12-27(JST)
富山大学(Web)
研究者にシェア!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次