【宋書】倭/倭国(本紀・夷蛮伝)|原文・現代語訳・解説

『宋書』本紀・夷蛮伝の倭国記事(倭の五王)を原文と試訳で掲出し、読みの分岐点と注意点を整理します。

本ページは『宋書』のうち、卷5・卷6・卷10の本紀に見える「倭国」関連記事と、卷97「夷蛮」東夷・倭国の当該箇所を扱います。
原文は、字形を繁体に寄せ、句読点を付けずに区切って掲出します(原文確認のための整形です)。

確実に言えるのは、使者来朝・官号授与・上表文など、本文が何を述べるか(記述内容)までです。
一方で、官号(都督○○諸軍事など)の射程や、上表文の誇張・修辞の扱いは読みが割れやすく、ここでは“分岐点”だけを示します。

この記事で分かること
  • 『宋書』に見える倭国関連記事を、章段単位で探しやすく読めます
  • 現代語訳(試訳)で大意をつかめます
  • 解釈が割れやすい“場所”だけを、局所論点として把握できます
目次

原文

字形方針:繁体に統一します。
整形方針:句読点は付けず、区切りは全角スペースで入れています(原文確認のための整形です)。

『宋書』卷5 本紀第5 文帝

七年春正月癸巳 以吐谷渾慕容璝爲征西將軍 沙州刺史 是月 倭國王遣使獻方物

夏四月甲辰 燕王弘遣使獻方物 立皇太子妃殷氏 賜王公以下各有差 己巳 以倭國王珍爲安東將軍
是歲 武都王 河南國 高麗國 倭國 扶南國 林邑國並遣使獻方物
是歲 河西國 高麗國 百濟國 倭國並遣使獻方物

秋七月甲辰 安東將軍倭王倭濟進號安東大將軍

『宋書』卷5 本紀第5 文帝

『宋書』卷6 本紀第6 孝武帝

十二月乙未 上於華林園聽訟 辛丑 車駕幸廷尉寺 閱囚徒 大赦 北使還 索虜遣使求和 丁未 車駕幸建康縣 赦獄囚 是時倭國遣使獻方物

三月庚寅 立第十三皇子子元爲邵陵王 壬寅 以倭國王世子興爲安東將軍

『宋書』卷6 本紀第6 孝武帝

『宋書』卷10 本紀第10 順帝

冬十一月己酉 倭國遣使獻方物

五月戊午 倭國王武遣使獻方物 以武爲安東大將軍

『宋書』卷10 本紀第10 順帝

『宋書』卷97 列傳第57 夷蛮

倭國在高驪東南大海中 世修貢職

太祖元嘉二年 讚又遣司馬曹達奉表獻方物

讚死 弟珍立 遣使貢獻 自稱使持節 都督倭百濟新羅任那秦韓慕韓六國諸軍事 安東大將軍 倭國王 表求除正 詔除安東將軍 倭國王

珍又求除正倭隋等十三人平西 征虜 冠軍 輔國將軍號 詔並聽

二十年 倭國王濟遣使奉獻 復以爲安東將軍 倭國王

二十八年 加使持節 都督倭新羅任那加羅秦韓慕韓六國諸軍事 安東將軍如故 并除所上二十三人軍 郡

濟死 世子興遣使貢獻 世祖大明六年 詔曰 倭王世子興奕世載忠 作藩外海 稟化寧境 恭修貢職 新嗣邊業 宜授爵號 可安東將軍 倭國王

興死 弟武立 自稱使持節 都督倭百濟新羅任那加羅秦韓慕韓七國諸軍事 安東大將軍 倭國王

順帝昇明二年 遣使上表曰 封國偏遠 作藩于外 自昔祖禰 躬擐甲冑 跋涉山川 不遑寧處 東征毛人五十五國 西服衆夷六十六國 渡平海北九十五國 王道融泰 廓土遐畿 累葉朝宗 不愆于歲 臣雖下愚 忝胤先緒 驅率所統 歸崇天極 道逕百濟 裝治船舫 而句驪無道 圖欲見吞 掠抄邊隸 殺害不已 致使擁隔 不得自申 事寧路通 或稽或擱 臣亡考濟實忿寇讎 壅塞天路 控弦百萬 義聲感激 方欲大舉 奄喪父兄 使垂成之功 不獲一簣 居在諒闇 不動兵甲 是以偃息 未捷至今 欲練甲治兵 申父兄之志 義士虎賁 文武效功 白刃交前 亦所不顧 若以帝德覆載 摧此強敵 克靖方難 無替前功 竊自假開府儀同三司 其餘咸各假授 以勸忠節

詔除武使持節 都督倭新羅任那加羅秦韓慕韓六國諸軍事 安東大將軍 倭王

『宋書』卷97 列傳第57 夷蛮

現代語訳(試訳)

本現代語訳は、語義・文脈にもとづく 試訳 であり、語句の切り方や含意には 複数の読み があり得ます(特定説に偏らないよう配慮しています)。

『宋書』卷5 本紀第5 文帝(倭国関連記事)

(文帝在位)七年春正月癸巳、吐谷渾の慕容璝を征西将軍・沙州刺史としました。この月、倭国王が使者を遣わし、方物を献じました。

夏四月甲辰、燕王の弘が使者を遣わして方物を献じました。皇太子妃に殷氏を立て、王公以下に等級を分けて賜りました。己巳、倭国王の珍を安東将軍としました。

この年、武都王・河南国・高麗国・倭国・扶南国・林邑国はいずれも使者を遣わし、方物を献じました。

この年、河西国・高麗国・百済国・倭国はいずれも使者を遣わし、方物を献じました。

秋七月甲辰、安東将軍である倭王の倭済を、安東大将軍に進号しました。

『宋書』卷6 本紀第6 孝武帝(倭国関連記事)

十二月乙未、上(天子)は華林園で訴訟を聴きました。辛丑、車駕は廷尉寺に幸し、囚人を閲して大赦を行いました。北方の使者は帰り、索虜(北方勢力)が使者を遣わして和を求めました。丁未、車駕は建康県に幸して獄囚を赦しました。このとき倭国が使者を遣わし、方物を献じました。

三月庚寅、第十三皇子の子元を邵陵王に立てました。壬寅、倭国王の世子である興を安東将軍としました。

『宋書』卷10 本紀第10 順帝(倭国関連記事)

冬十一月己酉、倭国が使者を遣わして方物を献じました。

五月戊午、倭国王の武が使者を遣わして方物を献じました。武を安東大将軍としました。

『宋書』卷97 列傳第57 夷蛮(東夷・倭国)

倭国は高麗の東南の大海の中にあり、代々、貢職(朝貢の務め)を続けているとされます。

太祖(武帝)の元嘉二年、讚はさらに司馬の曹達を遣わして表を奉り、方物を献じたといいます。

讚が死に、弟の珍が立ち、使者を遣わして貢献しました。珍はみずから「使持節・都督(倭・百済・新羅・任那・秦韓・慕韓)六国諸軍事、安東大将軍、倭国王」と称して、これらの官号の“除正(正式な授与)”を求め、詔により安東将軍・倭国王に除された、と記されます。

珍はまた、倭隋ら十三人に平西・征虜・冠軍・輔国将軍の号を除正するよう求め、詔してこれを許された、と続きます。

(元嘉)二十年、倭国王の済が使者を遣わして奉献し、あらためて安東将軍・倭国王とされました。二十八年には、使持節・都督(倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓)六国諸軍事が加えられ、安東将軍は以前のままとされ、さらに(倭側が)上った二十三人が軍・郡(の官)に除された、と記されます。

済が死に、世子の興が使者を遣わして貢献しました。世祖(孝武帝)の大明六年の詔には、興が代々忠を積み、外海の藩として職分を修めてきたことを挙げ、新たに辺業を嗣いだので爵号を授けるべきだとして、安東将軍・倭国王とする、と述べられます。

興が死に、弟の武が立ち、みずから「使持節・都督(倭・百済・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓)七国諸軍事、安東大将軍、倭国王」と称したとされます。

順帝の昇明二年、武は使者を遣わし上表して、「封国は偏遠で外にあって藩であること」「祖先以来みずから甲冑をまとい、東征・西服・渡海平定を重ねてきたこと」「百済を経由して航路を整えるが、句驪(高句麗)が道なく掠奪・殺害が止まず、しばしば隔てられること」「亡父の済は強敵を憤り大挙を志したが、父兄を失って功が成らなかったこと」「いま兵を整えて父兄の志を伸べたいので、開府儀同三司などを“自ら仮授”して士を励ましたいこと」を述べます。

そののち詔して、武を「使持節・都督(倭・新羅・任那・加羅・秦韓・慕韓)六国諸軍事、安東大将軍、倭王」に除した、と記されます。

史料解説

事実:この箇所の本文から言えること

本紀(卷5・6・10)では、倭国が使者を遣わして「方物」を献じたこと、そして倭国王(珍)や倭王(倭済)に対して官号が与えられたことが、簡潔に記されています。
夷蛮伝(卷97)では、倭国の位置づけ(「高驪東南大海中」)や、讚・珍・済・興・武の順での来貢・官号記事、さらに武の上表文(主張の骨格)がまとまって掲出されています。

このページで固定できるのは、あくまで「本文がそう書いている」という記述内容までで、地名比定や人物比定、実効支配の範囲はここでは結論しません。

読みの分岐点:どこで解釈が割れるか

「方物」「奉献」「貢献」などの表現を、儀礼的な贈答として軽く読むのか、対外関係(朝貢・冊封)の強い語感として読むのかは、読みが割れやすい点です。
「都督○○諸軍事」の列挙は、とくに射程(どこまで“管轄”を意味するのか)で分岐点になりやすく、文字面のまま実効支配と直結させるか、対外称号として整理するかで論点が生まれます。
武の上表文は、敵対者(句驪)や征服記事(東征・西服・渡海平定)を含み、修辞・誇張・政治的主張の混在をどう扱うかが読みの分岐点になります。

注意点

本紀と列伝は、同じ出来事でも掲出の仕方が異なり得ます。
本紀は年次の中で短く触れ、列伝側は対外記事をまとめて置くため、粒度の差が生じます。
「任那/加羅」「秦韓/慕韓」などは表記の揺れや、当時の対外認識の混在が起こり得る領域であり、語を固定して結論へ飛ばないほうが安全です。

本ページの原文は、原文照合のために句読点を付けず区切りを入れています。
校訂や別本差の確定は、このページ単体では行いません。

論点メモ

  • 「倭国王」と「倭王」の表記差をどう読むか(同一視するか、書き分けの可能性を残すか)が分岐点になります。
  • 「六国/七国諸軍事」の列挙は、文字面の強さに引っ張られやすいので、まず“称号の層”として読むのが安全です。
  • 武の上表文は、軍事・外交・正統性の主張が一体化しており、史実の核と修辞の混在をどう切り分けるかが論点になります。

出典

維基文庫
Wikipedia
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