【職貢図】倭/倭国(倭國使)|原文・現代語訳・解説

職貢図の倭国題記を原文・試訳で掲出。北宋模本と清代系統の差、欠落箇所、読みの分岐点を整理します。

このページは、史料『職貢図』のうち「倭國(倭國使)」に触れる題記(説明文)を、原文と試訳で対照できるように整理したものです。
ここで扱うのは倭国に関わる箇所です。具体的には以下2点です。

  • 北宋の模本として伝わる『蕭繹職貢図』(宋人摹本残巻)
  • 清代の張庚系統として紹介される『諸番職貢圖巻』(『愛日吟廬書畫續録』所収)

いずれも原本は現存せず、後世の模本・伝本として伝わっています。
そのため、作者・成立・本文の欠落や字形の確かさは、系統ごとに分けて確認する必要があります。

書物単位の成立事情や、職貢図というジャンル全体の評価は以下記事にまとめました。

この記事で分かること
  • 「倭國」に触れる題記が、どの系統(北宋模本/清代張庚系)に見えるか
  • 原文の欠落・判読不能箇所がどこにあるか(=読みの前提条件)
  • 本文から言える事実と、解釈が割れやすい“分岐点”がどこか
目次

原文

字形方針:繁体に統一します。
整形方針:句読点は付けず、区切りは全角スペースで入れています(原文確認のための整形です)。

『蕭繹職貢図』(宋人摹本残巻)

『蕭繹職貢図』
『蕭繹職貢図』

倭國使
倭國在帯方東南大海中依山島居自帯方循海水乍南乍東對
其北岸歷三十餘國可万餘里倭王所(※1)在會稽東氣暖地温
出眞珠青玉無牛馬虎豹羊鵲 (※2) 面文身以木綿帖首衣
横幅無縫 (以下欠落)

『蕭繹職貢図』(宋人摹本残巻)

※1:一部が欠けており正確には読み取れない。
※2:完全に敗れており読み取れない。

『愛日吟廬書畫續録』卷五清 7 张庚诸番职贡图卷(諸番職貢圖巻)

『諸番職貢圖巻』専修大学東アジア世界史研究センタ一年報第6号より(2012年3月)
『諸番職貢圖巻』専修大学東アジア世界史研究センタ一年報第6号より(2012年3月)

斯羅國(…中略…)或屬韓或屬倭

倭國在東南大海中依山島為居地氣暖
出珍珠青玉無(※3)黥面文身以木綿帖頭衣
横幅無縫但結束相連好沈水捕魚蛤婦人只被髮衣如單被
穿其中貫頭衣之男女徒跣好以丹塗身種禾稲麻苧蠶(※4)桒出袖布縑錦
兵用矛盾木弓箭用骨為鏃其食以手器用籩豆死有棺無槨齊建元中奉表貢獻

『愛日吟廬書畫續録』卷五清 7 张庚诸番职贡图卷(諸番職貢圖巻)

※3:欠落しているが「牛馬虎豹羊鵲男子皆」と思われる。
※4:蠶は簡体字では蚕が2つ横並びになるらしい。当サイト管理は証拠未確認。

現代語訳(試訳)

本現代語訳は、語義・文脈にもとづく 試訳 であり、語句の切り方や含意には 複数の読み があり得ます(特定説に偏らないよう配慮しています)。

『蕭繹職貢図』(宋人摹本残巻)

倭国の使者。

倭国は、帯方の東南の大海の中にあり、山や島に寄って住む。帯方から海沿いに進むと、(方角は)ある時は南、ある時は東へと向き、その北岸には三十余国が連なり、およそ一万余里に及ぶ。倭王の所在(※欠損あり)は、会稽の東にあたり、気候は温暖である。
真珠や青玉を産し、(欠損・判読困難のため断定できないが)牛馬・虎豹・羊・鵲などについて言及があったとみられる。
顔に入れ墨をし、身体にも文身を施し、木綿をもって頭に貼り付け、衣は横幅で、縫い目がない。
(以下欠落)

『愛日吟廬書畫續録』卷五清 7 张庚诸番职贡图卷(諸番職貢圖巻)

斯羅国(新羅)について(中略)――ある時は韓に属し、ある時は倭に属する。

倭国は、東南の大海の中にあり、山や島に寄って住み、土地の気候は温暖である。
真珠や青玉を産し、(欠落部分があるため断定できないが)続いて動物や男子の様子に触れる文があった可能性がある。
顔に黥(いれずみ)をし、身体にも文身を施し、木綿を頭に貼り付け、衣は横幅で縫い目がない。ただし結び束ねてつなぎ合わせる。
水に潜って魚や貝を捕るのを好む。婦人は髪を垂らし、衣は単衣のようで、中央に穴をあけて頭から通して着る。
男女とも裸足で、丹をもって身体に塗るのを好む。稲・麻・苧を植え、(字形は要確認だが)蚕や桑にも触れ、布・絹・錦を産するという。
兵器は矛と盾、木弓を用い、矢の鏃は骨で作る。食事は手づかみで、器は籩豆を用いる。
死者には棺があるが槨はない。斉の建元年間に表を奉り、貢献した。

史料解説

事実(本文から言えること)

この題記群が述べる範囲では、倭国は「帯方の東南の海上」「山島に依って居る」「気候が温暖」といった地理・環境の叙述を持っています。
また、身体装飾(黥面・文身)や衣服(木綿を頭に貼る/縫い目がない横幅の衣)、生活要素(潜水して魚貝を捕る、稲麻苧、器用に籩豆、棺はあるが槨はない)など、風俗の説明がまとまって現れます。
一方で、『蕭繹職貢図』側は本文自体に欠落・判読困難があり、同じ内容を“完全一致の形”で再構成できるほどの情報量が残っていない点に注意が必要です。

読みの分岐点(どこで解釈が割れるか)

第一の分岐点は、「帯方」「会稽東」といった比定の起点になる地名が、地理認識としてどの程度の精度で用いられているかです(記述の意図・参照した情報源が不明なため)。

第二の分岐点は、本文が描く風俗が「いつの倭」を想定しているのかという時間距離です。職貢図は原本不存で、現存するのは模本・伝本であるため、成立層(原図/模本/後代の整理)のどこに置くかが、読みの前提になります。

第三の分岐点は、同じ「倭国」題記でも、北宋模本と清代張庚系(諸番職貢図巻)で叙述の厚みや語句が異なる点で、ここは“どの系統のテキストを読んでいるか”を先に固定しないと、論点の位置がずれます。

注意点(注の混入/底本差/語形揺れ等)

職貢図は、原図(梁代に作られたとされる層)が現存せず、複数の模本・系統で伝わります。
代表的には、唐代に閻立本系として伝わるもの(王会図と呼ばれる系統)、南唐の顧徳謙による模本、北宋の『蕭繹職貢図』(宋人摹本残巻)、清代張庚の『諸番職貢圖巻』(『愛日吟廬書畫續録』所収)などが挙げられ、本文の有無(図のみ/題記あり)も一致しません。

したがって、本文の欠落・剥落・判読困難箇所については、安易に補って“本文の確定形”に見せないことが重要です。本ページでも、欠落は欠落として扱い、補いは訳注の形でも最小限に留めています。

また、字形(例:蠶/蚕など)の揺れは、テキスト化の段階で混入している可能性があります。
必要に応じて、所蔵機関の公開画像(または校訂資料)へ戻って確認してください。

論点メモ

  • 欠落箇所の扱い
    『蕭繹職貢図』側は剥落・判読困難が前提になるため、「何が書いてあったか」を本文として確定しない整理が必要です。
  • 地名の起点
    「帯方」「会稽東」の語は比定の起点になりやすい一方、地理精度・参照情報が不明で、読みの前提が論点になります。
  • 系統差
    北宋模本(題記あり・欠損あり)と、清代張庚系(叙述が厚い)では、同じ“倭国題記”でも情報量が違い、議論の出発点が変わります。
  • 風俗叙述の層
    風俗叙述が「観察」「伝聞」「整理」のどの層に属するかは、本文単体では確定しにくい箇所です。

出典

  • 國立故宮博物院 故宮典藏資料檢索「五代南唐顧德謙摹梁元帝番客入朝圖卷」用途:南唐顧徳謙系の作品情報確認(系統の具体例提示) 閲覧日:2026-01-24
    https://digitalarchive.npm.gov.tw/Collection/Detail/14843?dep=P
  • 國立故宮博物院「四方来朝─職貢図特別展」用途:職貢図関連作品の位置づけ確認(展示解説) 閲覧日:2026-01-24
    https://www.npm.gov.tw/Articles.aspx?l=3&sno=04010965
國立故宮博物院
専修大学東アジア世界史研究センタ一年報
  • ページ名:第6号2012年3月「東アジア世界史と東部ユーラシア世界史 -梁の国際関係・国際秩序・国際意識を中心に一」
  • URL:https://senshu-u.repo.nii.ac.jp/record/8655/files/2051_0006_14.pdf
  • 用途:『愛日吟廬書畫續録』卷五清 7 张庚诸番职贡图卷(諸番職貢圖巻)の確認
  • 閲覧日:2026-01-24(JST)
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