職貢図とは|成立・構成と史料として読む注意点

職貢図とは何か。原本不存と複数の模本系統を整理し、倭を読む際の注意点と論点の場所を解説。

職貢図しょくこうずは、古代中国の王朝が周辺諸国・諸族を「来朝する貢使」として描いた絵図の総称です。
倭(古代日本)に触れる図もあるため邪馬台国研究で参照されます。
ただし、原本は現存せず、現代に伝わるのは複数時代の模本・系統(系譜)で、図そのものの成立年代と「描かれている内容の年代」が一致するとは限りません。

この記事では、職貢図を史料として扱うために、まず「どの系統の職貢図を見ているのか」を整理し、どこまでを事実として言えるかの線引きを作ります。

注意点を一つだけ先に言うと、「職貢図(絵図)」をそのまま同時代の記録だとみなして断定しないことが、安全な読み方です。

この記事で分かること
  • 職貢図の成立(原本)と、現存する模本・系統の整理
  • 絵図史料としての注意点(「模本差」「文字情報の有無」「保存状態」の見方)
  • 邪馬台国研究で職貢図が参照される場面
目次

職貢図とは

職貢図は、周辺世界を「来朝する使節/貢物」という形で可視化するための絵図です。
いわば地理・民族・外交をまとめて“見せる”資料であり、記録性を持つ一方で、表現上の誇張や理念(中国側の秩序観)が混ざる可能性もあります。

邪馬台国研究で職貢図が参照されるのは、3世紀の邪馬台国そのものを直接記すからではなく、後代における「倭(倭国)」の位置づけやイメージが、どのような枠組みで描かれるかを確認する用途が多いためです。
ただし、ここで得られるのはあくまで中国側の“表象”としての情報であり、実像(統治の範囲、国内制度、所在地比定など)を単独で確定する材料にはなりません。

基本データ

成立・編者
原本模本(唐)模本(南唐)模本(北宋)模本(清)
著者蕭繹唐閻立顧徳謙不明張庚
成立年539年頃650年頃937~975年1077年頃1685~1760年
倭人に関する職貢図のみ

職貢図は、南朝梁の梁元帝(蕭繹)が作った「職貢図」が起点になったと言われています。
しかし原本は現存しません
したがって、実見できるのは後世に作られた模本・関連作(派生形)です。

構成

職貢図は以下の構成で描かれています。
1.図像(人物・服装・持物)
2.国名・人物名などのラベル
3.説明文(添文、ないものや欠落もある)

この差が、そのまま「史実として言える範囲」の差になります。

現存形態

職貢図は、少なくとも以下のように複数の系統(模本・関連作)があるのは事実です。
どこまでが「当初からの題記」か、どこからが後補(後世の注・整理・改編)かは、伝本ごとに状態が異なり得ます。
原本や他模本との差異をどう見るかが重要です。

唐代の閻立本「王会図」:7世紀
職貢図『王会図』の倭人
職貢図『王会図』の倭人

職貢図と近縁の“来朝図”です。
職貢図と同じく朝貢・来朝の場面を描く関連作として参照されます。
ただし、作品の性格(描き方・情報の出し方)が同一とは限りません。

唐時代の画家・閻立本(えんりっぽん)が描いた職貢図は、台湾国立故宮博物院所蔵で、『王會圖(王会図)』とも呼ばれています。
図のみで文が無いことが特徴です。

南唐の顧徳謙「摹梁元帝番客入朝図」:10世紀
職貢図『顧徳謙による模本』の倭人
職貢図『顧徳謙による模本』の倭人

「梁元帝の番客入朝図を摹した」とされる作品で、梁職貢図の系譜を考える際に参照されます。

南唐(937~975年)時代の画家・顧徳謙が描いた職貢図で、台湾国立故宮博物院所蔵です。
『五代南唐顧德謙摹梁元帝番客入朝圖 卷』という名前で保管されています。
こちらも図のみで文がありません

北宋期の「蕭繹職貢図(宋人摹本残巻)」:11世紀(6世紀)

原図的には最古級の遺例として扱われる版本です。
損傷・欠落を前提に扱う必要があります。

『蕭繹職貢図』
『蕭繹職貢図』

北宋の熙寧年間に描かれた職貢図は『蕭繹職貢図』と呼ばれ、中国国家博物館が所蔵しています。
原図は6世紀、南朝梁の元帝の時代(526~539年頃)に作成されたとされていますが、残念ながら失われています。
現存するものは、1077年頃に模写された宋人摹本残巻です。
『梁職貢図』とも呼ばれます。

こちらは絵の他に説明文があることが特徴です。

倭国の説明文は表面が剥げていて不完全な状態です。

清代の張庚「諸番職貢図巻」:18世紀
『諸番職貢圖巻』専修大学東アジア世界史研究センタ一年報第6号より(2012年3月)
『諸番職貢圖巻』専修大学東アジア世界史研究センタ一年報第6号より(2012年3月)

『愛日吟廬書畫續録』には張庚が作成した『諸番職貢圖巻』という職貢図が収録されています。
こちらの説明文にも倭国の話がありますが、北宋版の職貢図とは異なっています。

職貢図系の伝承・受容を考える手がかりになりますが、当然ながら制作年代の距離があるため、本文(描写)を同時代の一次記録のように扱うのは危険です。

邪馬台国研究で参照される理由

職貢図が参照されやすいテーマは、主に次のようなものです。

  • 「倭/倭国」がどのような姿(服飾・携行品・表情)で表象されるか
  • 中国側の対外秩序(来朝・朝貢)の枠組みの中で、倭がどこに配置されるか
  • 題記(テキスト)が付く場合、その語彙(国名・地理表現・風俗表現)が正史記事とどう接続し得るか

職貢図は、倭を「文字史料(正史の記述)」とは別の角度(図像)で位置づける補助線になり得ます。
具体的には、倭が描かれている図の服装・携行物・表象のされ方を材料として、議論の入口を作る場面で参照されます。

ただし、ここで重要なのは「職貢図に倭の図や文がある/ない」で結論を固定しないことです。
どの系統の図か、文字情報(添文)があるか、欠落や修復で情報が変わっていないかを確認してはじめて、検討の土台に乗ります。

史料として読むときの注意点

原本不存と「模本の系統差」を前提にする

職貢図は原本が残っていないため、私たちが見ているのは“写された職貢図”です。したがって最初の確認事項は、内容以前に「どの系統(どの模本・関連作)か」です。
同じ「職貢図」と呼ばれていても、制作年代・作者・目的・残存状態が違えば、史料として言える範囲も変わります。

図像史料は「記録」ではなく「表象」でもある

職貢図は、周辺世界を王朝の秩序の中に位置づけるための表象(見せ方)を含みます。
そのため、描かれている服装や持物を、即座に同時代の実態として断定せず、「どう描きたい図だったのか」という制作意図の可能性も残して読むのが安全です。

文字情報(ラベル/添文)の有無で、検討の粒度が変わる

職貢図系の資料は、図だけが残るものもあれば、国名・人物名のラベルや説明文が付くものもあります。
文字情報がある場合でも、それが原初の層なのか後世の付加なのかで意味が変わるため、「図」「ラベル」「説明文」を同じ層として混ぜない、という整理が有効です。

欠落・保存状態・修復で“見える内容”が変わる

巻子(巻物)の残欠で伝わる場合、欠落箇所がそのまま「描かれていない」と誤解されやすい点に注意が必要です。
また、修復や再装丁の過程で見え方が変わる可能性もあるため、できるだけ所蔵機関のデータベース画像や目録情報にあたり、どの状態の画像を見ているかを記録するのが堅実です。

関連史料との関係

主軸:文字史料の検討を先に置く

邪馬台国研究の基礎になるのは、まず文字史料(正史など)の叙述です。
職貢図は図像として魅力的ですが、原本不存・模本差・制作年代の距離があるため、主張の根拠をいきなり職貢図に全面的に預けるのは危険です。

補助:図像でしか拾えない“問い”を作る

一方で、職貢図は「誰が何をどう描いたか」という観点から、文字史料とは別の問いを立てられます。
たとえば、倭(または倭に比定される存在)がどのような姿で表象されるのか、同系統内で表現が揺れるのか、といった点は、図像史料だからこそ入口を作れます。
ただし、その検討は「どの系統の職貢図か」を固定し、残存状態と文字情報の層を切り分けたうえで行う必要があります。
そうすることで、図像を“断定の材料”ではなく“検討の地図”として使えるようになります。

読み分けポイント

  • 「職貢図」という呼称が、ジャンル名(総称)なのか、特定作品(梁職貢図)なのか
  • 原本(梁元帝蕭繹)と、現存模本(北宋残巻など)をどう区別して扱うか
  • 閻立本「王会図」や顧徳謙「番客入朝図」など、近縁作を職貢図の議論にどこまで含めるか
  • ラベル/添文が「原初の層」なのか「後世の付加」なのか(層の混同が断定を生む)
  • 残欠・修復の影響を踏まえたうえで、「描かれていない」と言ってよい範囲はどこか
  • 倭に関する議論で、図像が担える役割は何か(主根拠ではなく補助線としての使い方)

FAQ

職貢図に「倭」が描かれていれば、同時代の倭の姿だと言えますか?

言い切るのは難しいです。職貢図は原本不存で模本が複数あり、制作年代にも幅があります。まず「どの系統か」「文字情報の層はどこか」「残存状態はどうか」を確認してから、検討できる範囲を絞るのが安全です。

まず何を見ればよいですか?

最初は「所蔵機関のデータベース画像・目録情報」を見て、作品名・作者比定・時代比定・作品の説明を押さえるのが良いです。そのうえで、文字史料(例:魏志倭人伝)の論点の場所を確認し、職貢図を補助線として使う順番がおすすめです。

参考文献・出典

國立故宮博物院(NPM)
アート観賞メディア「artouch」
  • ページ名:職貢図とは? 歴史的背景や現存作品を解説
  • URL:https://artouch.jp/column/zhigongtu/
  • 用途:職貢図(ジャンル)の概説、成立背景の整理
  • 閲覧日:2026-01-23(JST)
Open Museum(作品解説)
専修大学
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