山海経【倭関連記事】原文と現代語訳

古代中国の地理書『山海経』に記された「倭」関連記述の原文と現代語訳。「蓋国南倭北、倭属燕」(海内北経)と「黒歯国」(海外東経)の2箇所を、邪馬台国研究への含意とともに解説。

『山海経』海内北経「蓋国在鉅燕南倭北倭属燕」および海外東経「黒歯国」の倭関連記事2箇所を収録する。

目次

史料データ

項目内容
書名山海経(せんがいきょう)
巻・章巻9 海外東経 / 巻12 海内北経
編者伝・禹(う)、伯益(はくえき)など(神話上の人物)。実際の編者は不詳
成立年不詳(前3世紀〜後1世紀頃)
参照URL①https://ctext.org/shan-hai-jing/hai-wai-dong-jing/zh
参照URL②https://ctext.org/shan-hai-jing/hai-nei-bei-jing/zh

原文

海外東経:黒歯国の記述

黑齒國在其北為人黑食稻啖蛇一赤一青在其旁
一曰在豎亥北為人黑手食稻使蛇其一蛇赤
下有湯谷湯谷上有扶桑十日所浴在黑齒北
居水中有大木九日居下枝一日居上枝

『山海經』卷第9 海經 海外東經

黒歯国は其の北に在り。人と為るや黒く、稲を食らい、蛇を啖う。一(いち)は赤く一は青く其の傍に在り。一に曰く、豎亥の北に在りと。人と為るや手黒く、稲を食らい、蛇を使(つか)う。其の一の蛇は赤し。下に湯谷有り。湯谷の上に扶桑有りて、十日の浴する所、黒歯の北に在り。水中に大木有り、九日は下枝に居り、一日は上枝に居る。

海内北経:倭の記述

蓋國在鉅燕南倭北倭屬燕

『山海經』卷第12 海經 海內北經

また古事類苑が引く本経の注(郭璞注)には以下の記述がある。

〔山海經 十二海内北經〕
蓋國在鉅燕、南倭北倭屬燕、{倭國在帶方東大海内、以女爲主、其俗露紒、衣服無針功、以丹朱塗身、不妬忌一男子數十婦也、}

『古事類苑』地部 巻1 地總載 倭國

蓋国は鉅燕の南、倭の北に在り。倭は燕に属す。

『古事類苑』注
倭国は帯方の東の大海内に在り。女を以て主と為す。其の俗は紒(もとどり)を露わにし、衣服は針功(はりしごと)無く、丹朱を以て身に塗る。嫉妬せず、一男子に数十婦有り。

語注

語句読み解説
黒歯国こくしこく歯を黒く染める風習を持つ国とも解釈される。
魏志・後漢書にも登場。
啖蛇たんじゃ蛇を食べること。黒歯国の神話的特徴。
扶桑ふそう太陽が昇る神木。
東方の理想郷・日本(倭)の別名として後代に用いられる。
湯谷とうこく太陽が沐浴する谷(東方の極み)。
蓋国がいこく鉅燕の南・倭の北に位置するとされる国。
鉅燕きょえん古代中国の国「燕」の別称。現在の北京付近。
「鉅」は「大」を意味する。
強大であった戦国時代の燕を「大燕」と呼んだ表現。
倭属燕わはえんにぞくす「倭が燕に属していた」という記述。
前3〜2世紀の燕の勢力範囲との関係が問題。
露紒ろかい・ろかん・ろけい髻を覆わずに露わにすること。

論点

📌 事実として確認できること

  • 山海経に「倭」という語が登場することは確認される
  • 「倭属燕」という記述は山海経海内北経に存在する
  • 「黒歯国」の神話的描写は後の魏志・後漢書の「黒歯国」記述と名称が一致する
  • 古事類苑が引く注は、晋代の郭璞(かくはく)による注釈である。内容は『魏志倭人伝』などの情報を後代に引用・追記したものであり、紀元前の『山海経』成立当時の倭国認識を示すものではない

💬 解釈が分かれること

「倭属燕」の解釈

山海経の記述が実際の地政関係を反映しているとすれば、前3〜2世紀に「倭」が中国東北部の燕の勢力圏に含まれたことになる。
しかしこれは神話・地理書であり、実際の外交関係を記録したものか否かが大きく問われる。
江戸時代の学者もこの記述をめぐり議論した(古事類苑所引「秦山集」参照)。

「黒歯国」と倭の関係

山海経の黒歯国が魏志後漢書の「黒歯国(倭の南方)」と同一の概念かどうかは不明。
「黒歯」という語が独自に複数の文化に存在する可能性もある(歯を黒く染める習慣はアジア各地に広く見られる)。

成立年代の不確実性

山海経の成立が前3世紀頃から後1世紀頃という幅広い範囲にある以上、「倭属燕」が燕の最盛期(前4〜3世紀)を記録したものか、後代の地理認識の投影かは判断できない。

🔍 未解決の仮説・問い

  • 「倭属燕」が史実を反映するとすれば、それは楽浪郡設置(前108年)以前の倭の政治状況を示す。そのような前漢期以前の倭の対中国関係に関する他の証拠はあるか。
  • 論衡が記す「周の成王時代の倭人の鬯草貢献」と合わせると、山海経の「倭属燕」はさらに古い時代の倭と中国の関係を示唆するが、いずれも伝説的記述の枠を出ない。
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